翡翠の森
自分は無力だ。
アルフレッドもロイも、きっとエミリアだって。
それぞれが戦っているというのに、何もできていない。
それどころか、こうしてロイを困らせるばかりで。
「……頑張るから」
だからこそ、そう己を奮い立たせるしかない。
祈り子としてロイの前に連れて来られたのが、運命的な恋なのだとしたら。願うばかりでは駄目なのだ。
(残念ながら、私に特別な力はないから)
動かなくては。
あんな夢が現実になればいい、そう祈るだけでは全然足りない。
「……君はよくやってるよ。誤解しないで。アルだって、君が無茶をするのは望んでいない。……けど、正直言うと、僕も辛い時はあるからさ」
ロイの手は冷えていた。
それがすごく悲しくて、ジェイダは握る手に力を込める。
「ねえ。あの賭けって、まだ有効? 」
からかう口調ではない。
本心から反応を窺っているのだ。
「うん。でも……私の分がまだだわ」
ロイが知りたい。
この先何が起こっても。
もしも二人が懸念するように、エミリアが何かの引き金になってしまうとしても。
ロイのことだけは、けして疑ったりしないから。
(……それだけではないでしょう? )
「そうだった。そんなに面白くないけど、いい? 」
頷くと、交換条件だというように手首を引き寄せてきた。
自分の方が彼の手を包んでいたというのに、いつの間にすり抜けたのだろう。
「私が知りたいだけ。ロイが許してくれるところまででいいから」
おずおずと胸に頬を寄せた。
抵抗などしなかった。
だって、そういう賭けだったのだ。
「ずるいな。好きな子にそう言われたら、全部話すしかないじゃないか」
ロイがふっと息を漏らす。
話し始めるのだろうと彼を見上げると、ニッと笑って口づけられた。
唇の端っこに。
「これくらいいいでしょ。抱きしめるだけじゃ、とても元がとれないからね」