翡翠の森
約束
・・・
あの幸せな時間も束の間のこと。
この大きくて冷たい城を見上げると、吸い込んだ空気から身体の芯まで凍ってしまいそうになる。
『アルバート! 』
『……兄上』
この顔も、まだ見たくはなかったのに。
少し年の離れたアルフレッドは、幼いロイにとって憎い存在だった。
自分との違いを憐れんでいるのか、度々話しかけてくる。
『病気は治ったのか? 』
白々しい。
本当に療養していたなど、思ってもいないくせに。
『……はい』
『無理するな。ここは冷えるからな。ぶり返したら大変だ』
(だから、帰ってくるなって? )
弟が邪魔なのだろう。
以前は王位のことで、周りが揉めたこともあるらしいし。
『だが、回復したならよかった。見舞いに行きたかったのだが……』
(……嘘ばっかり)
来たいはずがないではないか。
将来有望な第一王子が、あのような片田舎に何の用がある?
『……兄上こそ、無理しないで下さい。私の……僕のことが嫌いなら、放っておけばいいのに』
『……何を』
その傷ついた表情は、何のつもりだ。
そうだ、演技に決まっている。
何でもできる兄なのだから、それもお手のものだろう。
『兄上も、みんなと一緒だ。僕なんか、いなくなればいいと思っ……」
最後まで言えなかった。
頬に電撃が走ったのだ。
『アルフレッド様!! 』
デレクの慌てた声が、遠くで聞こえる。
頬はヒリヒリと痛むのに、ロイには何が起こったのか分からなかった。