翡翠の森
・・・
時々途切れながら語られるロイの話に、ジェイダはただ、耳を傾けた。
「アルはああ見えてお節介だし、情にも厚い。弟だっていうのに、それを知ったのは大分経ってから」
彼の兄の呼び方を不思議に思っていたが、やはり事情があったのだ。
「僕の名前……君は訊かないでくれたね。変だと思ったはずなのに。今更だけど、ありがとう」
彼の名前にも。
「私が会ったのが、“ロイ”だっただけよ」
今、ロイはどんな顔をしているだろう。
すぐそこにあるのに、とても確かめることはできない。
「そうだね。……僕は王の器じゃない。子供の頃の僕は、その事実にだけ目がいって……他のことを知ろうともしていなかった。それを与えられた人間が、どんなに苦しいかなんて」
けれど、ロイは知ってしまった。
兄の優しさに触れ、歩み寄るうちに気がついてしまった。
「アルが不幸だなんて、言うつもりはない。でも、僕だってそうだ。僕にしか、できないことがある。……きっと、ずっと前から」
小さなロイを、誰が責められるだろう。
孤独や疎外感。
重くのし掛かるものを払いのけて、彼はこうして立ち向かっている。
「そう思えて、しかも行動できるのはすごいことだわ。私なんてロイに会わなかったら、暢気に過ごしてただけだもの」
そして、取り返しがつかなくなってやっと、事実を知るのだ。
「そうかな。君自身が知らないだけで、いや、僕には想像もつかないことを、やってのけてると思うよ」
そう言われては、黙るしかない。
むくれるジェイダの頬を、長い指が楽しそうに撫でた。