翡翠の森
「雨も降ったし、早いとこ仲良くすりゃいいのにね。僕たちみたいに」


ロイの声が僅かに変わったのは、気のせいだろうか。
さっきから止まったままのような、彼の視線も。


「え、あ、ああ……そうね」


思わず頷いてしまったが、果たして正解だったのか。


「……ふうん」


往復していた指を止め、ロイが意味ありげに呟く。


(~~間違ったかも……!! )


やはり、思い過ごしではない。
口調は穏やかだが、彼を纏う空気がいつもの何割増しか意地悪だ。



「そうなったら、僕の名付け親に君を紹介したいな」


慌てるジェイダをよそに、ロイは話を戻してきた。

「あ……」


安堵したのか、物足りなかったのか。
とにかく、ジェイダはよく見る夢を思い出した。


「気が早い? 」

「えっと。そういうことじゃなくて、偶然だと思うんだけど。最近、よく夢を見るの。クルルの男性と、トスティータの男の子の。今の話を聞いていたら、ロイの子供の頃みたいだなって……」


青い瞳が見開かれ、急いで首を振る。


「ごめんなさい。ただの夢なの」

「謝ることはないよ。それに、僕はそうは思わない」


彼を見上げれば、言葉通り怒ってはいないようでほっとする。


「……参ったな。別に、僕が話してることだから、いいけどさ。でも、君に見られたと思うと、恥ずかしいというか」

「可愛かったよ? 」


本心だったが、ロイは褒め言葉と受け取らなかったらしい。
首を傾げるジェイダに言っても無駄だと悟ったのか、軽く息を吐くにとどめていた。



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