翡翠の森
それでも、見つめ続けているのは自分の意思だ。
「いいよ、全部教えても。……もう一つの約束は、破ることになるけど」
「約束? 」
胸の高鳴りが、思考能力を低下させている。
それとも彼の言葉を繰り返すことで、時間稼ぎをしているのだろうか。
「僕を好きになって」
自分の気持ちを、はっきりと口にする勇気を出すまで。
「言わないって言ったけど、取り消す。……早く、好きになりなよ」
その台詞が、出会った当初の彼を彷彿させる。
だが、頭の中で重なるようで重ならなかった。
あの時の王子様は、にっこりと微笑んでいたのだ。
「優しい王子様が全て嘘だとは言わないし、そんなこと思ってない。……でもね」
焦れたようにも、苛々しているようにも見える。
「それは僕の、ほんの一部。その先を知りたいなら、僕を好きだと言ってみて」
(……この前のロイだ)
そう思った時には、同じように指が唇に触れていた。
「ロ……」
「だってさ。教えてしまってから、やっぱり知らなきゃよかったと思われたら、終わりだろ。だから、先に聞いておきたい」
口を開けないように喋ると、もう彼の名前すら呼べない。
「そ、狡いよ? 僕は。……どうする?」
そんなジェイダをからかうように、ロイはもうひと撫でする。
言質を取ろうというのか。
後から嫌いになったと、言わせない為に。
「……無理に聞こうとは、思わない」
拒絶されたと思ったのか、スッと指が離れた。
「確かに狡いわ。でも……」
おかげで、はっきりと口を動かすことができる。試されたようで、苛立ちを覚えたのだ。
でも、それは――。
「でも、好き。あの時ロイが怒ってくれて……嬉しかった」
彼のことが、好きだからだ。