翡翠の森
「……ジェイダ」
知っていたからこそ、尋ねたのではないのか。
言わせたのはロイだというのに、何故か彼は茫然としている。
「ロイが好き。……って言ったけど!! 別に、無理しなくても……」
「嫌だ」
羞恥のあまり声を張り上げたが、ロイの小さな呟きに消されてしまう。
「悪いけど、知ってもらうよ。これから、たくさん、ね」
腰にあった手が背中に上り、ぐっと押さえつけて気づく。
この先の展開を脳は予測できないでいるのに、無意識のうちに身は竦んで、彼から距離をとろうとしていた。
「きゃっ……? 」
それを許してもらえずに、倒れこんだ体を支えるべく、慌てて両手を床につくと――。
「な、何を……」
一瞬のうちに、ロイの背中も床に接していて。
(これって、もしかしなくても……)
「さあ、何からにする? 」
自分が彼を、押し倒したようだ。
「うわぁっ……!! 」
最早、可愛らしい悲鳴など出てこない。
必死で起き上がろうと試みたが、またもロイの腕は許さなかった。
「逃げないの。言い出したのは、君だろ」
「いっ、言ったけど……! そういう意味じゃ……」
撤回なんかさせない。
そう言葉にするより早いと思ったのか、ロイの唇が塞いでくる。
町娘のジェイダに、お姫様扱いをした彼の口づけとはまるで別人のような。
本気で追われるような、早急なものだった。
「……あのさ。男の本性なんて、女の子が知りたがるもんじゃないよ。……僕は嬉しいけどね」
翻弄されるジェイダを満足そうに見ると、わざとらしくペロリと唇を舐めてみせた。
「……だから!! そんなこと、言ってな……」
「好きだよ。……ありがとう、ジェイダ」
もう一度、唇が重なる。
(……本当、ズルいな)
でも、好きだ。
一度告白してみれば、もうずっとそうなのだと認めることができた。
何故なら二回目は、ちゃんと目を閉じる余裕があったから。