翡翠の森



・・・



ロイの過去と苦悩。
面白くないと彼が言った通り、それは辛いものだった。
彼にとって、触れてほしくない部分だっただろうに、手を伸ばすことを許してくれた。
その気持ちが、とても嬉しい。


(本心だってば!! なのに……)


乙女心とは厄介だ。


(どうしたって、キスしたことに頭がいく。もう、今日はロイに会わないでおこう)


あれから、どうやって彼と別れたのかもよく覚えていない。
本人不在の今だって、真っ赤になっているのだと、鏡を見ずとも分かるほど。
そんな自分に気がついて、更に熱が上がる有様だ。この上、彼の姿が目に入ろうものなら。


(……鼻血とか出るかも。いや、さすがにそれはダメ)


およそ乙女らしくないことを考えながら、とにかくロイから逃げ回る決意をした。


「ジェイダ様、いらっしゃいます? 」


噂をすれば、かと思い焦ったが、聞こえてきたのは高い女性の声。


「エミリア様」


出迎えれば、昨日と同じく優雅な微笑を湛えて、エミリアが立っていた。


「突然、申し訳ありません。ご一緒してもよろしいですか? 」

「もちろん」


彼女を見て、ハッとする。
自分のことで頭が一杯になっていたが、エミリアは大丈夫だったのだろうか。


「あの……エミリア様」


声を掛けてみたが、続く言葉が見つからない。


「……何も」


首を振る彼女を見ても、どちらの反応をしていいか分からなかった。




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