翡翠の森
ジェイダに出逢う前。
この計画を立てた、当初のこと。
(可愛くて、いい子ならいいなと思った。そりゃ、自分の婚約者設定だから)
国王が祈り子を迎えるのが不可能ならば、自分がいるではないか。
常識など持ち合わせていない、人の言うことなどまるで聞かない、第二王子のやることだ。
多少突飛、程度では誰も驚かないだろう。
彼女には失礼なことだが、熱を上げた王子様が囲ったことにでもしておけばいい。
少なくとも、年若い女性が灼熱の大地で祈ることはなくなる。
長丁場になりそうなので、祈り子自身もこちらを好きになってくれれば、なお楽だ。
本当に彼女を迎えることができたなら、クルルとの関係も変わるだろう。
初めは敵国の男と言われるもしれないが、妙な自信があったのも確かだ。
実際は、呆気なく打ち砕かれてしまった訳だが。
(そういや、こっちが本気で好きになるなんて想定してなかったもんな)
自尊自大がすぎて、恥ずかしい。
アルフレッドの言う通り、本当に熱を上げているのは自分の方なのに。
「自分の女は自分で守れ。それに、それどころか」
ロイを睨んでいた目が、ふと緩む。
「ジェイダの方が、お前を守ろうとしている」
以前、マロにも言われたではないか。
『ロイが心配だって、ジェイダは言ったんだ』
そして、ジェイダ本人にも。
『……そう。でも私、行くから』
笑いが込み上げて、止まらない。
(守りたいなんて言いながら、守られているのは王子様の方か。……いや)
祈り子という、辛い役目を負わされた女の子。
彼女に守られているのだ。
王子様姿の奥にいる、大の男が。