翡翠の森

みっともない。
兄の言う通り、これは甘えだ。


「……ちゃんと守る。守りきって、祈り子なんて役目から解放させて……僕だけのものにしてやる」

「私に預けるつもりではなかったか? 」


(……怒られたのは、あの時以来だな)


恐ろしくはなかったが、全く動けなかったのを覚えている。
だが今は、ロイはまっすぐと兄の視線を受け止め、睨み返す。


「だからあの時、承諾しとけばよかったんだよ。僕が自分の嫉妬深さを認める前に。悪いけど、もう二度とあんなこと言ってやらない」


――ジェイダは、僕のものだ。


渡せない。
預けることなんか、できない。
彼女が安全な場所にいるなら、それが他の男の腕でもいいなんて。
そんないい人めいた嘘は、二度と吐かない。


「ふん。大人しく守られてくれるといいがな。せいぜい頑張れ」


肩を竦めて、兄に背を向ける。


(ありがとう。それから……ごめん)


ロイは前を向いて歩き出す。
途中に聞こえた兄の呟きが、耳に入らないふりをして。


『……どちらにせよ、ジェイダは私に守られてはくれないさ』


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