翡翠の森



・・・



そして、出立の日が訪れた。


「お気をつけて」


距離的にも滞在日数的にも、そう長い旅ではない。けれども、どうしてだろう。


「エミリア様も」


もう……いや、少なくともしばらくは、会えない気がするのは。


「ジェイダ」


その隣にいる、アルフレッドにも。


「無茶はするな。必ず帰ってこい。……二人で」


(“帰る”と言ってくれるのね)


「うん」


城門を前にそう言ってくれる二人に安心させるよう、大きく頷いてみせる。


「お前たちは二人とも、無茶がすぎる。不安なことに、今度は私の目が届かない」


だが、彼は余計に不安になったらしい。


「……だから、互いが見てやれ。何かする前には、自問しろ。その決断が、相手を泣かせるものではないかと。疑問に思えば、やめとおけ」

「……アルフレッド……? 」


いつもの呆れ顔を止め、切羽詰まったようにアルフレッドは続けた。


「此度の招致は大事だ。だが、進展がないことよりも、お前らが欠けることの方が痛いのだ。二人揃っていれば、また次へ繋げる。……それを忘れないでくれ」


(心配、だよね)


少し歳の離れた、可愛い弟。
ようやく仲直りしたと思ったら、手放さなくてはいけないなんて。


「お前が帰ってきて、減らず口を叩けぬようにしておく。……帰ってこい」

「……ああ。頼むよ」


兄弟の会話に、既にもらい泣きしそうになる。


(……もう! まだ出発もしてないのに)


そんな自分を叱りながら、きゅっと唇を結んでいると――。


「も、申し上げます……!! 」


バタバタと走る音が聞こえたと思えば、バンッと扉が開かれた。


「……何だ、騒々しい」

「そ、それが……」


門番がチラリと異国の少女に目を遣り、慌てて国王の前に跪く。


「アルバート様の出立を止める為、民衆が城門前で騒いでおります」






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