翡翠の森
人、人、人。
そこには、ジェイダの想像を遥かに越える人数が集まっていた。
(こんなに……)
美しい金色の髪。
透けそうなほど、白く滑らかな肌。
自分と異なる容姿の人々を一度に沢山見て、足が止まる。
「ジェイダ……」
気遣わしげに呼ぶ声に、自らの両頬を叩く。
(馬鹿。何をやっているの)
ついさっき、キースに啖呵を切ったばかりではないか。
たったこれだけの距離を歩いただけで、立ち止まってどうする?
(怖くないよ。そう、言ったじゃない。ジェイダ)
「あ、アルバート様だ! 」
「じゃあ、あの女が噂の……」
「見れば分かるじゃないの。他にいないもの」
皆が一斉にざわつき始める。
これだけの人数が思い思い喋れば、聞き取るのも難しいはずなのに。
(……嫌だな。自分のことだけ、聞き取れるなんて)
「……何の騒ぎなの、これは? 」
ふわりと語るロイは、すっかり王子様モードに切り替えている。
当然といえば当然で、仕方がないといえばそうなのだ。
けれども、こんな状況でそうならざるを得ないのはジェイダにも辛かった。
「……クルルに行かれるなんて、本当なのですか!? 」
「危険です! どうか、取り止めを……! 」
兵が下がらせようとするのを、ロイが制した。
「そうだよ。ついに、クルルとの国交が正常になるかもしれない。……だから、中止はしない」
穏やかだが断固としたその言葉に、皆が表情を曇らせていた。