翡翠の森
(ロイは、器じゃないなんて言っていたけど)
慕われているのだ。
優しく穏やかで、甘い王子様。
それだけで、これだけの人数が集まるだろうか。出立を止めてほしいと直談判するだろうか。
「そんなこと、なさらなくても……! 」
「そうだ、何か良からぬことを企んでいるかもそれません」
胸が痛い。
間に立ち、彼は今、何を思うのだろう。
「……っ……」
思わず前に出ようとすると、ロイの腕が押し止めた。
「下がって」
だが、それよりも早く、前の方にいた人達の目がジェイダに向いた。
「その女にたぶらかされたのですか? 」
「アルバート様を利用しようとするなんて……」
騒ぎを止めようとする、兵の数も圧倒的に足りない。
いや、力で止められるものではないのかもしれない。
皆、この国やロイが好きなのだ。
「……そんな言い方はやめろ」
ロイの声色が、急激に陰を帯びる。
(ロイ、抑えて……! )
彼の手を、ぎゅっと握る。
せっかく、愛されているのだ。
理解を得るためにも、彼まで嫌われてはいけない。
――その時。
(……? )
声が聞こえる。
「どうしたの? 」
気のせいだろうか。
(でも、確かに……)
子供の声だ。
「泣いてる……? 」
大人たちの怒鳴り声に紛れ、子供の泣き声が微かに聞こえてきた。