翡翠の森

(ロイは、器じゃないなんて言っていたけど)


慕われているのだ。
優しく穏やかで、甘い王子様。
それだけで、これだけの人数が集まるだろうか。出立を止めてほしいと直談判するだろうか。


「そんなこと、なさらなくても……! 」

「そうだ、何か良からぬことを企んでいるかもそれません」


胸が痛い。
間に立ち、彼は今、何を思うのだろう。


「……っ……」


思わず前に出ようとすると、ロイの腕が押し止めた。


「下がって」


だが、それよりも早く、前の方にいた人達の目がジェイダに向いた。

「その女にたぶらかされたのですか? 」

「アルバート様を利用しようとするなんて……」


騒ぎを止めようとする、兵の数も圧倒的に足りない。
いや、力で止められるものではないのかもしれない。

皆、この国やロイが好きなのだ。


「……そんな言い方はやめろ」


ロイの声色が、急激に陰を帯びる。


(ロイ、抑えて……! )


彼の手を、ぎゅっと握る。
せっかく、愛されているのだ。
理解を得るためにも、彼まで嫌われてはいけない。

――その時。


(……? )


声が聞こえる。


「どうしたの? 」


気のせいだろうか。


(でも、確かに……)


子供の声だ。


「泣いてる……? 」


大人たちの怒鳴り声に紛れ、子供の泣き声が微かに聞こえてきた。


< 144 / 323 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop