翡翠の森
溢れるほどの人々の足元を、小さな子供が歩いている。
「危ない……! 」
この騒動の中、親とはぐれたのだろうか。
あんなに泣いているというのに、誰も気に留める様子はない。
皆興奮していて、自分の腰にも満たない背丈の子供が目に入らないのだ。
「誰か、その子を! 」
(このままじゃ……! )
子供が潰されてしまう。
これほどの人数に蹴られてしまえば、怪我では済まないかも――。
「ジェイダ!? 」
ロイの制止を振り切り、ジェイダは走り出した。
あろうことか、自分を敵だと騒いでいる人だかりの、中心目指して。
「きゃあ!! 」
「気をつけろ! 何かするつもりかも……」
異国の少女が突進してくる。
今まで怒鳴っていたことなど忘れたように、人々が逃げ惑う。
「落ち着いて! 彼女はそんなことしない!! 」
ロイが声を張り上げても、恐怖に駆られた人間には届かない。
「お願い! 動かないで……! 」
(どこ!? )
「ジェイダ、待って! 」
ロイも後を追うが、既にジェイダは群衆の渦の中にいた。
「ジェイダ! 」
泣き声を辿ろうと、身を屈める。
どこかへ逃げようとする人の足がぶつかり、思わず呻く。
だが、自分ですらこうなら、ほんの子供は――。
「どこにいるの!? 」
もう何度目か呼びかけた時。
「ううっ、ひっく……」
(いた…!! )