翡翠の森
まくらべがたり
「まったく。出発する前から怪我なんて」
待機していた車に乗り込んですぐ、お説教とともにロイの手がそっと頬を包む。
「だ、だって……」
声が上擦ったのも、ピクリと動いてしまったのも。手のひらが傷口に触れたせいだ。
「……うん。ありがとう」
お礼なんていらない。
それは本心からだったが、彼に言われればやはり嬉しい。
「僕は……本当に運命の人と出逢ったんだな」
突然、クサイ台詞が降り、ジェイダの頭を殴りつけていく。
「本音を言えば、僕だけにとっての運命ならよかったけど。……僕が君と逢えたことは、皆にとっても運命だった」
ジェイダの頬がみるみる染まるのも構わずに、いや、だからこそだろうか。ロイは容赦なく続けた。
「……早く、君が欲しいのに」
(……ぎゃふん! )
とんでもない一言に、頭がくらくらする。
(は……今……え……!?!? )
聞き間違いだろうか。
彼の表情は、特にいつもと変わりない。
『ああ、今日も寒いね。風邪引かないでよ』
そんな挨拶をするロイと、同じ顔だった。
「あー、ほんと。早く欲しいなあ。頑張ろうね、ジェイダ」
また、聞こえた。
(……私の耳がおかしいのかしら。幻聴? )
そう思って近くにいるデレクを見ると、激しく狼狽し、目を逸らされてしまった。
(……な、訳ないじゃない! 現実!! 気を確かに、私! )
つい甘い雰囲気に流されそうになり、ジェイダ必死で自分に言い聞かせた。