翡翠の森

どんなに自分を励ましても、感覚が甘く痺れてしまう。
ロイの手は相変わらず頬に触れたままだし、残念ながら止めてくれる人もいない。


(ぎゃー! 何で真顔でいられるんだろう。王子様って、そんな訓練もするのかな)


口には出せない悲鳴を心にしまい、何とか平静を装おうとする。
けれども顔が赤みを帯びるのは、どうしようもなかった。


「そうしてると、普通の女の子なのに」


意外な呟きに、思わず彼を見上げた。
自分はどう見ても、ただの平凡な女の子だが。


「……待ち遠しいってこと。君が僕だけのものでいてくれる日が」

「……っ、ロイ……」


強烈だ。
一体、今日の彼はどうしたというのだ。
同じ車内で、デレクは狸寝入りをしているし、ジンもニヤニヤして成り行きを見守っている。


「その為に頑張るとするよ。あまり長引かないように」

「そうね。早く、落ち着くといいな」


(……よし)


会話から過度な甘さが減りそうで、ほっと息を吐く。


「ん。僕も辛いからね。……ああ、ジェイダもかな? 」

「え? 」


辛いと言えば、もちろんそうだ。
これから歩む道は、苦難が待ち受けているだろう。


(……でも、なんか、ロイの声が……)


これまでの経験からか、それとも本能的な警報か。ジェイダの体が固まる。


「あんまり待ちすぎると、たがを外した時大変だよね。そうならないよう……ぼちぼちいく? 」


(出たー!! )




< 148 / 323 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop