翡翠の森

強張った体を起こす前に、ロイが唇を塞いできた。

息ができない。
至近距離で彼を感じていたせいで、ただでさえ呼吸を止めていたのに。
突然深く口付けられ、目眩すら催してしまう。


「寝てた方がいいよ。“本当に”」


(もしかして、知ってた? )


「ここに来た理由、もう一つあってさ」


うっすらと目を開けると、ほんのすぐ側で彼が顔を歪めていた。


「君と一緒にいたいけど。部屋に呼んだら、さすがに抑えられる自信なかった」


言葉とは違い、瞼に唇が落とされる。
今度は、そっと。
反射的に目を瞑れば、褒めるように頭を撫でられた。


「おやすみ、ジェイダ。……僕が優しい夢を見てね」


(なに、それ……)


どういう、おまじないだ。それに。


「ロイは、やさし……」


いつだって、優しい。
反論するジェイダの唇に触れ、彼はなおも意識を手放せと命じてくる。


「……好きだよ。絶対に、君を諦めたりしない」


何事か彼は呟いたが、もうジェイダには聞き取れない。


(……また、おまじない)


きっと、そうだ。
彼が唇を動かしたとたん、何とも言えない浮遊感が襲うのだから。


「ロイ……」


引き寄せられるように、頭の重みを彼の腕に預けてしまう。


(腕、痺れないかしら)


「寝なって」


申し訳なかったが、耐えられないほど眠気が凄まじい。笑いながら、もう片方の手が頬を包む。

ジェイダはようやく、降参した。

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