翡翠の森

目を閉じれば、浮かんでくるのは彼女の笑顔だ。いや、それだけではない。


怒った顔も。
泣きそうで泣かない顔も。
照れた時、目を泳がせることだって。
挫けそうになるロイを、励ましてくれる。
無駄ではなかったのだと、きっとこれから芽が出るのだと、もう一度信じさせてくれる。

口説き文句の一つや二つを怒るくせに、そっと抱き寄せただけで無言になって。
上昇する体温が愛しいと思う。
この気持ちは消えはしないから。


(……まだだ)


「……そう。僕が無事なことだけでも、伝わればいいんだけど」


ジェイダの返答がないことには触れなかった。
彼女に何かあったなど、考えたくもない。
そんなことになったなら、それこそ正気ではいられないに違いない。


《無事だって? ……キミもジェイダのことを言えないくらい、お人好しだよ》


今がどういう状態になっているのか不明だが、デレクやジンが大っぴらに城内を探し回るのは不可能だろう。


「まさか。ただ、彼女に出逢って、いっそう諦めることができなくなったから、かな」


ここで諦めて果てることは、再び彼女を抱きしめることはもちろん、それ以上に触れることも叶わなくなる。

――カツン、カツン。

靴音が響き、マロがポケットに身を隠す。


「……やあ。待ってたよ」


もう一度、姿を現すと思っていた。
痛いほど胸が鳴っているのを耐え、できるだけ穏やかに話しかける。


「どういうことなのか、話してくれ」


まっすぐに、自分をここに繋げたその人物を見つめて。


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