翡翠の森
ジェイダがアルフレッドに同調したのを見て、ロイが肩を竦めた。
「僕だって、最初から女の子を攫おうなんて思ってなかったさ。国家間のことなんだから、国家レベルで話し合うべきだ。でもね」
考えてみれば当然だ。
祈り子などという呼び名ではあるが、所詮ただの娘。
連れて来て、話し合ったとして何になるだろう。
「……クルルの王族はいけ好かん。話にもならんしな」
アルフレッドの仏頂面が、更に酷くなった。
「そうなんだよねー。これまでも何度か、友好を築こうとしたんだけど。それで、ジェイダに白羽の矢が立ったてこと」
自国の王と言っても、当たり前だがその素顔など見る機会はない。
彼らがそう言うのならば、きっと事実なのだろう。
「そうは言っても……私が王家に出入りできる訳もないし。一体どうやって」
密書を持ってクルルに帰ったとしても、門前払いはおろか城門まで辿り着けるかどうか。
何しろ、役目を放棄して逃亡した裏切り者だ。
裏切り――改めて言葉にすると、やはり辛いものがある。
祈り子などおかしいと思っていても、自分の国を裏切ったなんて。
「ああ、そうじゃないんだ。えっと、非常に言いにくいんだけど、つまり……」
見せしめになどはしないと、ロイは言った。
だが、こうも渋っているのを見ると、良くないことなのだろう。
命はとらないまでも、捕虜とか、軟禁状態とか……。
「何だか誤解してるみたいだから、単刀直入に言うけど」
そうは言いながらも、相変わらず歯切れは悪い。
「ジェイダ」
早くしてほしい。
覚悟はできて――。
「今から君は、僕の婚約者ってことで。ここはひとつ、よろしく」