翡翠の森
拒絶
「……ごめんなさい」
両国民の想像以上に事態が深刻なのは分かったが、何でそうなるのだ。
「えっ!? 何で!? 」
(……そして、その反応はなぜ)
「もしかして、そんな……アルの方が好み……? 」
言われて思わずアルフレッドと目が合ったが、さも嫌そうに視線を逸らされてしまった。
「そういうんじゃなくて。いきなり、そんなこと言われても」
会ったばかりの人に、婚約者になれと言われても困る。
愛情はおろか、友情が芽生えたかすら怪しいというのに。
「えー……。困ったなあ。そう言えば、断られるとかあんまり考えてなかったや」
頭を掻きながら出てくる、その自信は何なのだ。
いや、彼のような王子様に申し込まれ、断る自分がどうかしているのか。
「あ、でもね。そんなに深く考えなくてもいいんだよ」
婚約を簡単に考えろという方が難しい。
一応こちらは、結婚に夢見るうら若き女性だ。
「僕の望みは、ただ婚約者でいてくれること。……僕を好きになって、なんて言わないから」
「――っ……」
何かを言いかけて、やめる。
ジェイダが口をきゅっと結んだのに気づかずに、ロイは続けた。
「公の場で、それらしくしていてくれさえすれば。もちろん、この問題が片付けば解消するし、もしその間君に好きな人ができれば、好きにしてくれて構わない。あんまり大っぴらだと困るけど……」
「ロイ様」
怒鳴りたいのを必死に我慢していた。
女性のジンは、ジェイダのそんな気持ちをいち早く察したのだろう。
きっと、ロイは分からない。
それでも耐えたのは、彼が恐らく本気で言っているのだと思ったから。
彼は彼なりに、譲歩できるギリギリの案を申し出てくれているのだ。
ジェイダの為に。
ましてや傷つけるつもりなど、全くないのだった。
「……ごめん」
彼はいい人だ。
先程のことからも分かるように、ジェイダがこの国で過ごしやすいよう、最大限に努力してくれている。
「やっぱり、嫌だわ」
だからこそ、だ。