翡翠の森
(それに……)
ジェイダだ。
敵だと言われた国の男とは、ああして手を繋いでくれるのに。
母国の国王の前で怯えながらも、行動してくれる彼女に敬意を表したかった。
(ジンがいるから、大丈夫だろうけど)
仮にも婚約者であるのに、おかしなことだ。
別室を用意されたのは、“祈り子に手を出すな”という意味もあるのだろうか。
ジンの腕っぷしは信用しているが、愛しい人を女性に任せたままというのも、男として我慢できない。
しかし、国賓級のもてなしを受けている手前、文句をつける訳にもいかず、こうしてデレクといたのだが。
「……行ってくる」
クルルにとって、彼女はまだ祈り子だ。
キャシディはまるで信じていない口振りだが、一度とはいえ雨は降った。
言い伝え通りに力があるかもしれない少女を、殺してしまうことはないだろうが。
「な、ロイ様!? 」
「大丈夫だよ」
デレクお得意の大声も、ここではあまり張りがない。
無理をさせたくはないし、他にもお供はいる。
「何かご用ですか」
ドアを開けると、そこには若い男が控えていた。
「あ、いや」
「あまり、不用意に出歩かれない方がよろしいかと」
先程はいなかったが、見張りだろうか。
黒い瞳が、まっすぐにこちらを見ている。