翡翠の森
「申し訳ないが、彼女の様子が気になるので、道を開けてもらえないでしょうか」
「……ご案内致します」
年上だろう男に敬語を使ったが、彼は不機嫌そうに顔を歪めた。面倒だと思われたか。
二人の部屋はすぐそこだが、そう言われては断るのも気が引けた。
無意味に怪しまれるのは避けたかった。
「……あの? 」
既に部屋は目に入っているのに、何故か男は必要もなく角を曲がる。
「……なぜ、来た」
聞き取るのがやっとの、低く掠れた声。
けれど、ロイは本能的に後退り、彼と距離をとった。
「まさかと思った。そうでなければいいと。……なのに、お前は来たんだな。アルバートとして」
ぞんざいな言い方に訝り、改めて男の顔をじっと見た。
「きみ、は」
憎しみ、怒り。
全く隠そうとはしない彼に、昔の面影が重なる。
「やっと思い出したか。所詮、その程度」
そうではない。
ロイだって、忘れたことなんかなかった。
「……レジー……」