翡翠の森

「いいとこのお坊ちゃんだとは思っていたが。まさか、敵国の王子様だったとはな」


――敵。
自分の顔を見て、彼の口から吐かれた言葉にロイは唇を噛んだ。


「あの時は、下見か何かで来てたのか? クルルを陥れる為の? 」

「……っ、違う!! 」


すぐさま否定したが、レジーは鼻を鳴らすだけ。


「分かってるよ。あんなガキ一人で、何もできるものか。……それに、俺にはどうでもいいことだ」


あれから十数年経ったとはいえ、どうしてすぐに気づかなかったのか。


「言えなくてごめん。でも、あの日々は僕にとってもとても幸せだった。君やロドニーに会わなければ、僕はずっと自分の存在を認められなかったし。今だって、“ロイ”でいられるのが……」

「やめろ!! 」


絞り出すかのような声が、突如怒号に変わる。


「言っただろ。お前がどういう目的であの森にいたかなんて、俺の知ったこっちゃない」

「……」


目的などなかった。
それどころか、何の意味ももたなかったからこそ、アルバートは歩いたのだ。
一人、あの禁断の森まで。


「お前が謝るべきは、他にある」


(レジー……一体、何が)


彼やロドニーに会えなくなったのは、何の前触れもなかった。
その前日だって、何も変わったことはなかったはずだ。
レジーとふざけ合って、それを父親のロドニーがにこにこして眺めていた。


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