翡翠の森
監禁されていることを忘れるほど、それはあまりに酷い出来事だった。
胸のポケットにいる精霊のおかげか、レジーすら知り得ないことまで頭の中に流れ込んでくる。
・・・
『ジェマ』
ロドニーが名を呼ぶと、すぐに彼女はにこりと微笑んだ。
『おはよう。そんなところで、サボっていていいの? 』
仕事を放り出して会いにきたことなど、もはやいつも通りだ。
彼女ももちろんお見通しで、悪戯っぽく覗きこんできた。
『ああ、そうだね。また、どやされちゃうな』
『早く行った方がいいわよ』
普段なら、クスクスと笑われてそこで終わり。
けれども今日こそは、すごすご帰るつもりはなかった。
『……ちょっと……』
困ったように呟くと、ジェマは掴まれた自分の手首を見つめた。
『デート、してくれる? 』
『……』
何度もはぐらかされているのだから、いい加減諦めたらいいものを。
残念ながら、脈はないのだ。
分かっていても、足繁く通ってしまう。
振り切れずに、立ち止まってくれるのも。
僅かに赤くなった頬も。
どうしたって、忘れることができないまま。
『……叱られるな、今日も』
困らせているのも知っている。
ジェマは強くは言わないけれど、迷惑かもしれなかった。
いや、それ以外の何だというのだ?