翡翠の森
話題を戻し、男は手を離した。
言い訳にもならないが、嫌な思いをさせたい訳ではない。
『……っ、待って! 』
今日もダメかと背を向けた時、裾を引かれて振り返る。
『ジェマ……? 』
『あ、えっと……どこ、行く? 』
向き直った勢いのまま、抱き締めたくなるのを何とか自重する。
『君といられるなら、どこでも』
彼女の指先が、自分を引き留めている。
それだけでも、頭の中は花が満開。
『楽しみにしてる。…ロドニー』
気立てのいい、誰からも好かれるジェマ。
美人であるし、自分のように声をかける男など珍しくはない。
そんな彼女が付き合ってくれるとは、信じられない気持ちでいっぱいだった。
・・・
『ロドニー? 』
鈴を転がすような声で呼ばれ、ロドニーは隣に意識を戻した。
『あ、いや』
慌てて言葉を探したが、うまくいかない。
おかしい。こうして夢が叶って、急にもやもやするなんて。
だが、彼女は自分の手元を見て、勘違いしたようだ。
『これね。毎日同じ顔が同じ花を売っていても、みんなの興味も薄れると思うんだけど……あまり、手に入るものがなくて』
そう、肩を竦めて笑ってみせた。