翡翠の森
話を合わせようと、今更ジェマの籠に目を移す。
中には鮮やかな赤い花が、まだたくさん売れ残っていた。
『そんなことはないだろ。少なくとも僕は、美人が売ってたらそうは飽きない』
『また、そんなこと言って』
評判の可愛い花売り。
励ましたくての冗談だったが、まるっきり嘘ということでもない。
「一輪いかがですか? 」
なんて言われようものなら、つい必要もないのに買ってしまいたくなる。
馬鹿丸出しだったが、事実、最近までは人気で売り切れることも多かったのだ。
『でも、仕方ないわ。いつも赤い花ばかりじゃね』
原因は、この猛暑だった。
元々、クルルは常夏の国。
暑さに弱い植物は育ちにくい。
それでも少し前までは、もっと種類も豊富だったはずなのだが。ジェマの売る花は、今ではこの赤い花だけ。
『だとしたら、みんな随分飽き性だね。僕はまだ、見足りないけど』
籠の中からひとつ失敬して、彼女の髪に挿した。
正直なところ、あまり花には興味がないが。
少しくせのある、ふんわりとした黒髪に赤い色がよく映える。
『……ロドニーの本職って、女性相手の詐欺師だったりしない?』
頬も同じように色づくのは可愛らしいが、出てきた言葉はあまりに酷い。
『君が落ちてくれないのに? 』
いつからか、ずっと見つめていたのは花ではない。
どうしようかと迷ったが、抗えずに唇を重ねていた。