翡翠の森
「どうして? 何か条件があるなら……」
そうじゃない。
彼が用意してくれたものは、どれも庶民のジェイダにとっては高級すぎるものだ。
ロイが守ってくれているから、表立って差別を受けることもないのだろう。
でも――。
「ロイ自身が、それを望んでいないから」
『僕の望み』
彼はそう言ったけれど、それは嘘だ。
彼は、自分を好きな訳じゃない。
彼にとっても会って数日の女の子なのだから、当たり前だ。
「でも、もう話を聞いてしまったわ。処罰なり、処刑なりして下さい。ロイはしないっていったけど……酷いことには違いないわ」
この国の内情を知ってしまった。
協力できないただの娘を、放っておく理由もないだろう。
勢いで口に出したようなものだったが、もう後には引けない。
彼らは身分ある人だ。
他国の少女など、どうにでもできる。
今更のように恐怖が襲い、手が震える。
それでもジェイダは、ロイを睨むのをやめなかった。
「ちょっ……ジェイダ、何を……」
「ジェイダ様!? 」
着たばかりのワンピースを肩から落とすと、ジンが慌ててロイとの間に滑り込んできた。
「……返します」
実を言うと下着も準備してくれていたが、さすがにそれを脱ぐには抵抗があった。
「ジェイダ様。お気持ちは分かりますが、どうぞ、何かお召しに……! 」
ジンが何とか男の目から守ろうとしてくれる。
彼女が女性にしては大柄だったことで、アルフレッドはもちろん、ロイの目にもそれほど映ってはいまい。
「自分のものを着ます」
「でも、それでは薄すぎます。もっと厚手のものを着て下さらないと」
言っても聞かないジェイダに、仕方なく元の服を頭から被せてくれた。
「どこに行くの!? 」
そんなジンに申し訳なく思いながらも、ドアノブに手をかける。
「帰る」
「無茶だよ……! 」
無茶だとも。
ここに異国人がいること自体、無茶なことなのだ。
「じゃあ、追いかけて閉じ込めたらいいじゃない……! 私にはもったいない、このふりふりの乙女ちっくな部屋に!! 」
力任せにドアを閉めて思う。
(……すごく馬鹿な捨て台詞だ)
だが、ここまできたら戻れない。
ジェイダは覚悟を決めて、走り出した。