翡翠の森
・・・
熱帯夜なんていつものことなのに、今夜は殊更寝苦しい。
愛しい人が隣にいると思えば、幸せで心地よい夜――なのに。
『ジェマ』
ロドニーは苦悩していた。
いや、苦悶していたというべきか。
早い話が、我慢の限界が近かったのである。
よく分からないのが、ジェマの態度だ。
口づけすら、未だに戸惑うような素振りを見せるので、先に進めずにいるというのに。
こうしてくっついてくる彼女は、男の葛藤など気にしてくれないのだろう。
しかし、ジェマも子供ではない。
夜中、恋人と二人きり。
自分からぴったり身を寄せてきて、何も考えていないこともないと思うのだが。
『どうしたの』
困っているぞと表しても、彼女は更にしがみついてくる。
『……好き』
その上、そんなことを言われようものなら――。
『あ……』
パサリ。
音を立てて、ジェマの背中がベッドについていることも。
その瞬間、彼女がピクリと震えたことも。
心の中で謝りながら、ロドニーは見て見ぬふりをした。
なぜ、ジェマは分からないのだろう。
自分が漏らした声のこと。
それがどれほど、人を悩ませているのかを。