翡翠の森
このところ、いやに暑かった。
ジェマの仕入れる花は激減したし、食物の収穫も年々厳しくなっていく。
『……そんな』
どうして、とは思えなかった。
言い伝えでは、祈り子は美しく賢い女性。
ジェマが選ばれても、何の不思議もない。
『もしかしたらって、言われてた。だから本当は、あの時に断らなくてはいけなかったのに』
だから、振られ続けていたのか。
会いに行く度、どこか悲しげに笑って。
『……させない。そんなこと』
そんなことをして、何が解決するというのだ。
祈る?いつまで?
雨が降るまでか。
それとも、この痩せた地が潤うまでか。
その間に、その女性はどうなる?
この暑さでは、屋内にいても汗が出るというのに。
日に焼け、渇き、倒れてしまうに決まっている。
『でも……』
『……結婚しよう』
意味不明なことに、祈り子は未婚の女性だそうだから。
彼女が拒否できないのなら、この手で奪うだけのこと。
『ロドニー、そんなことしたら』
責められるだろう。
ここで暢気に暮らすことも、きっとできなくなる。
『どうか、断らないで』
次々に生まれる涙を、せき止めることはしなかった。
泣かせてあげたかったし、この目に焼きつけておこうと思ったのだ。
ジェマの涙を思い出せば、この先も必ず力を尽くすことができる。
――その日、クルルの乙女はいなくなった。