翡翠の森
・・・
そして、ロイは来てくれた。
父に引き合わされた時は、あんな出会い方だったけれど。
両親の予想通り、二人は仲良くなったのだ。
『レジー』
ロイは、小さくひょろりとしていた。
体力もないので、どんな遊びをしてもすぐにへばってしまう。
『仕方ないだろ! 僕の方が年下なんだから。ちょっとは合わせるとか、譲るとかしてくれたっていいじゃないか』
そのくせ、口だけは達者だ。
そうは言いながら、本当に手加減したら拗ねてしまう。
『ロイは何かを抱えた子だよ。そんな彼がこんなに慕っているのだから、レジーは立派なお兄さんだ』
父もそう言っていたっけ。
血のつながりがないどころか、何もかも異なる憎めない弟分。いや、本当に弟だと思っていた。それがあの日――……。
――よせ。思い出すな。
それ以上、記憶を辿ってはいけない。
その先に思い出すのは、いつも同じ場面だから。
――赤だ。
少年だったレジーには、この世界を食い尽くすかのような赤。
レジーには見当もつかなかった。
なぜ、自分の家が燃えているのか。
なぜ、誰も寄りつかないここが、消されなくてはいけなかったのか。
涙は出なかった。
頬を滑り落ちるのは、場違いな雨だ。
「……んで、今更……!! 」
恵みの雨だったのだ。
それでも、レジーには何の意味もない。
それどころか腹立たしくて堪らない。
もっと早く降っていれば。
そうすれば火は消し止められたかもしれないし、そもそも母が祈り子に選ばれる必要もなかった。
役目を放棄したと思った、誰かの仕業だろうか。
それとも、ロイに会っていたことが騒ぎにでもなったのか。
理由はレジーが大人になった今でも分からないままだが、ひとつだけ知ったことがある。
祈り子がいなくとも、雨が降ったこの日。
全てがなかったものとされていた。
ジェマが祈り子に選ばれたことは、町の歴史から消えていたのだ。