翡翠の森
「はっ。その格好で言えることか? 」
動けば動くほど、拘束する鎖も食い込んでくる。
「……望みは何だ。まさか、女の子を傷つけたいわけじゃないだろ。両国にも興味がないなら、僕をどうしたい? 」
もしこれが、クルルの政策とは無関係だとしたら。
レジーはただでは済まないだろう。
彼が言った通り、己の身さえ本当にどうだっていいのだ。
「言ったら、死んでくれるのか。お前を殺したいほど、憎んで生きてきたと」
喉元に、レジーの切っ先が突きつけられる。
皮膚が薄く裂けるのを感じ、ロイは目を閉じた。
「……ごめん。それはできない」
「だろうな」
レジーはあっさり頷いたが、刃を逸らす気はないようだ。
「僕が死んだら、あの子が泣く」
いつ刺されるともしれないこの状況で、考えるのはジェイダのこと。
「ああ、そうかもな。だが、しばらくすりゃ、他の男をみつけるかもしれないぞ。この国でな」
心配するなというように、また少しロイの肌を掠る。
「彼女は強いよ。でも、だからって……いや、だからこそ悲しませたくない」
たとえ本当に、この命が尽きても。
時間が必要でも、ジェイダは一人でも成し遂げてくれる。
それができると信じているからこそ、彼女に負わせたくない。
「自信家になったものだ」
「そうでもないけどね」
自信なんてない。
ロイを今まで突き動かしてきたのは、ロドニーの志やレジーの存在が大きかった。
もちろん自分自身の使命感や理想もあるが、それだけではここまで来れなかった。
さっきの返事だって、変わっていたかもしれないのだ。
『その決断が、相手を泣かせるものでないか』
(ジェイダがいなければ、きっと僕自身のことは諦めていた)
その方が楽だ。
何もかも諦めて、レジーの剣に倒れる方が。
レジーの苦しみも、残される者の辛さも。
放置されたままの問題も、何もかも放棄できたら。
「どんなにみっともなくても、僕は諦めるわけにはいかない。……ジェイダに会わせてくれ」