翡翠の森

「後、よろしくね」


そう残して外に出ようとしたが、ジンに阻まれてしまう。


「何言ってるの! 貴女が行ったって……」

「ジンこそ、何言ってるの? 私、適任だわ」


ジンやデレクが騒ぎ立てることができないなら、婚約者の自分がいる。
早くロイを解放しなくてはいけないし、もしひょっこり帰ってきても、誤魔化しが利きそうだ。


「この上、二人まであらぬ疑いをかけられたりしたら、ロイが戻っても動けなくなる」

「それを言うなら、貴女だって」


首を振り、ジンをまっすぐに見つめる。


「私は恋人に会いたくなって、こんな時だというのに我慢できずに飛び出すの。そんな場違いな女の子に罰を下すなんて、寛大な王様はしないわ」


祈り子は敵に回った。
そう思われている懸念はある。


「ジェイダ……」


だが、こうしていても何にもならない。
考えてはいけないことだが、レジーが激昂してロイを傷つけたりしたら……。


「……分かったわ」

「ジン殿!? 」


承諾されて驚いたが、彼女は条件をつけてきた。


「二時間よ。ロイ様が見つからなくとも、必ずその間に戻ってきて。貴女一人だったり、時間が過ぎた場合、トスティータに知らせるわ」


短い制限時間に、早くも胸がドキドキしてきた。


「そうすれば十中八九、マクライナー殿の耳にも入るでしょう。アルフレッド様がいらっしゃるとはいえ、今後クルルとの和平は難しくなる」


ロイが囚われているのだ。
それが広まれば、また遠ざかる。
そして今度はいつ、近づくことができるのか。


「――分かった」


この広い城の中を探し回るのには、あまりに短い時間だ。
ジェイダが入れる場所はごく僅かで、誰かに協力を仰ごうにも信じてもらえるかどうか。
けれど、ジンの瞳はこれ以上は譲歩しないと告げている。


「絶対、ロイと帰ってくる」



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