翡翠の森
ロイにもしものことがあれば、彼が望むものとは全く逆の結果に終わるかもしれない。
けれども、それだけではない。
ロイを失えば、彼を慕う人々の怒りや悲しみが募り、クルルへと向く。
そして、仕返しが始まれば――また、次の仕返しを生む。
(それだけは、絶対に駄目!! )
部屋を出て大きく息を吸うと、ジェイダは走り出した。
どこに駆けて行けばいいのか。
この逸る思いを、どこに向けたらいいのか。
通りすがる人が、不審そうに眉根を寄せた。
それはトスティータで感じたよりも、少しばかり余計に痛い。
だからといって、ジェイダは止まらない。
時間もなければ、諦めるという選択肢ももっていないのだ。
「何をしている」
どれだけ走っただろう。
かなり遠くまで来た気がするが、同じところをぐるぐる回っていたのかもしれなかった。
「あ……っ」
――キャシディ。
「変な女が駆け回っていると聞いて、来てみれば。やはりお前か」
逃げ道はない。
彼がこちらへ向かってくるのを待つのみだ。
「祈り子は寝返ったと思う奴も多い。滅多なことはしないことだ」
あまりいい印象のない、男と二人。
こういう時にいつも側にいてくれた、ロイはいない。
不安と緊張に、胸が押し潰されそうになる。