翡翠の森
(でも、好機かもしれない)
途方もない広さ。
部屋など無数にある。
闇雲に探していては、いたずらに時間が過ぎるだけだ。
「愛しの婚約者殿はどうした? 」
嫌味な言い方だが、キャシディから振ってくれたことに感謝する。
「……いなくなりました。どこかに閉じ込められているのではと心配で」
「馬鹿な。何故、そんなことをする必要がある? 」
レジーのロイに対する逆恨みならば、本当に彼は無関係なのだろうか。
「でも、本当にいないんです。お願いです。……探して下さい! 」
「お前を置いて、国に帰ったのだろう。残念なことだ」
ジェイダ一人では興を削がれたのか、キャシディは踵を返そうとする。
眉間に深く皺が刻まれ、怯みそうになる。
だが、もう……いや、最初から後戻りなどできない。
無礼だと首を撥ねられるのを覚悟で、ジェイダは王子の服を必死で掴んだ。
「……まさか、その為にアルバート自ら隠れているのではないだろうな」
「この城の造りを、彼がどう知れると? それにそうお思いなら、探して下さい」
だが、振り払われることも不敬罪を問われることもない。
ぶるぶると震える指を一瞥し、いっそう冷ややかな声が降ってくる。
だとしても、聞いてくれただけしめたもの。
頷くまで、この手を離すものか。
「ふっ……はは! お前、私を使おうと言うのか。この私に、恋人を探せと」
「……そうです」
キャシディに会うまで、誰一人相手にしてはくれなかった。
声を掛けようとしても逃げられるし、そもそも近寄ってくれない。それは向こうで経験したのと同じで、悲しく辛い。
それでもロイを探すには、もうこの男に頼るしかないではないか。
考えようによっては、これ以上の人物はいない。