翡翠の森
「……まあ、いい。どちらにせよ、あいつに用があったからな」
嫌な予感がする。
だが、今はロイを見つけることが最優先だ。
「で? どこを探す」
「……牢屋とか」
不穏な言葉に、キャシディが怪訝そうに見下ろしてくる。
「あるにはあるが。そんな場所にいたら、目立ちまくって監禁などできまい。……ふん……」
何か思いついたのか、急に歩き出す彼を慌てて追った。
「きゃっ……? 」
追いつく手前で立ち止まられ、もう少しで背中に追突するところだった。
「お前は何者なんだ、ジェイダ」
自分を呼んだのだと理解した時には、既にキャシディは背を向けていた。
「何者でもありません」
返事が彼に届いたかどうか。
大股で歩くキャシディを必死に追いかけながら、ジェイダはぎゅっと拳を握る。
自分が何者かなんて、ジェイダ本人もよく知らない。
一番知っているのは、孤児院の人たちか。
それとも、世話を焼いてくれた近所の人々か。
(でも……)
ジェイダ自身分からないのに、彼らは受け入れてくれた。
あの時感じた孤独から救ってくれたのは、トスティータの人たち。
何者かなんて、関係ない。
どこの国の人間でも、出自など分からなくても。
好きになってくれた人がいる。
『願いが叶うなら、どちらの血も流さずに済むなら』
「私が躊躇う理由なんて、ない」