翡翠の森
「足下にお気をつけ下さい」
早々に鍵を開けさせ、その先の階段を降りていく。
こんなところに入れるなんて、レジーはどんな人なのだろう。
そういえばこの城に勤めているのなら、他に探しようがあったのかもしれないとも思ったが、キャシディに続きながら首を振る。
レジーのことは、できれば言いたくない。
大人になった彼もきっと、ロイにとってはもう一人の兄だ。
「すっ転ぶなよ。誰かが待ち構えているとも限らん。……アルバートを拐った犯人がいるとして、な」
『かくれんぼに丁度いいところがあった』
そうキャシディが教えてくれたのは、古い貯蔵庫だった。
確かに、かくれんぼには最適だ。
むしろ、誰にも見つけてもらえなさそうな――。
(嫌なこと考えない!! )
瞳を閉じたロイを想像し、その可能性を頭から追いやった。
「ここは涼しいものだ。涼む為に来たのではあるまいな? 」
ぞくりと悪寒が走ったのを見透かしたのか、暢気にからかってくる。
「こんな時に、ロイがそんなこと……」
「しっ。……話し声がする。愛しい男のものではないのか? 」
すぐに耳を澄ます。
(ロイ……! )
まだ遠くて聞き取れないが、彼の声だということだけは分かる。
それだけでへなへなと崩れ落ちそうだったが、何とか堪えた。
「相手は? 」
そうだ。
マロはレジーがロイを恨んでいると言っていた。早く駆けつけて、止めなければ。
(お願い、二人とも……! )
両親を失ったレジー。
その悲しみは計り知れないけれど、彼にはまだ弟がいる。
血の繋がりはなく、母国は争っていても。
彼らはずっと、兄弟だった。
(ロドニーさん)
息子たちは、きっとやり遂げてくれる。
(私も精一杯頑張りますから)
決意を胸に、ジェイダは歩みを進めた。