翡翠の森
世間知らずの、夢みがちな王子様?
(違う)
「ジェイダ、それはいい……」
「よくない! お父さんの死を知らされて、泣くこともできないなんて……! 」
口に出してはいけない。
ただの想像だ。
そう思っていたのに、止まらなかった。
どうして、ロイの想いが伝わらないのか。
彼だって、ずっと抱えているのに。
それはきっと、元々両親のいない自分よりも重たいのだろう。
悔しくて、悔しくて。
泣きそうになりながら、レジーを見つめた。
「ちっ……邪魔しやがって」
女に騒がれて辟易したのか、レジーが剣をしまう。
「レジー、ごめん。できたら、これも解いてくれ」
「……俺に頼むことか」
「だって。女の子には無理だし、キャシディにその気はないようだし」
レジーは大きく息を吐くと、自ら鎖を断ち切った。
「キャシディ」
よろめきながら立ち上がると、ロイは傍観を決め込んでいたキャシディに声をかける。
「僕は旧友に会う為に、こっそり部屋を抜け出した。心配したお姫様が、僕を恋しがって大騒ぎしたってことで」
「お前、何を」
言いたいことは沢山あったが、ぐっと堪える。
今は友好条約が結ばれる、大切な時期だ。
そして何より、この兄弟にとっても事を明らかにする必要はない。
「ジェイダもいいね」
元々そのつもりだった。
それでも口をへの字にして頷くと、ロイが笑って頭を撫でてきた。
「そんな馬鹿な話が……」
「レジー」
異を唱える間を与えず、ロイが遮る。
「僕はロイだ。あの日、ロドニーに会ってからずっと。この先も変わらない」