翡翠の森


・・・



まるで崩れるように、ジェイダが瞬く間に眠りに就く。


「っ、と……」


抱き留めれば、先程まで縛られていた腕には辛いが。


「本当にこの子は、もう」


ほっとする。
初めて見た、ジェイダの泣き顔。
理不尽なこともあり、悲しいこともあり。
涙目になることはあっても、彼女はけして瞳から溢すことはなかった。

それが、自分がいなくなっただけで。


(何だよ。すごい幸せ者)


「それにしても、キャシディを連れてくるとはね」



むちゃくちゃではあるが、確実でもある。
このまま頬を緩ませていたいが、仕方なくロイはただ突っ立っている王子に目を遣った。


「祈り子が走り回っていると聞けば、放っておくわけにもいくまい? まあ、引っ捕らえてもよかったが……どうせ、お前を探さなくてはいけなかったからな。というより、用があったのはお前の方だ。アルバート」


せっかく楽になった体が、再び強張る。
私的な話など、あろうはずもない。
彼自ら用があったのなら、それは二国に関することだ。


「北が動き始めた。この折にどういう訳か、な」

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