翡翠の森
(……何の為に)
心からの信頼はできなかったが、それでも衝撃だった。
王家乗っ取りなどの次元ではない。
下手をすれば、国の存続すら危うくなる。
《北が潰し合いを目論んでいるのかもしれん。……それだけは避けねば》
(……ああ)
元々衰えているところを、更に国力を削ぎ合う。
そして共倒れした後に、北は全て平らげる算段なのか。
《エミリアの処遇と、それから親書も届けさせる。……頼む》
(……分かった)
エミリアはどうなるのか。
気になったが、とても尋ねることはできなかった。
「……ロイ様? 」
じっと目を閉じていると、デレクが心配そうに声をかけてきた。
「あっちのことは兄さんに任せよう。……僕たちはここでできる、最大限のことを。領土に区切りはあっても、陸地は繋がってる。人だって、きっと同じだ」
どこの国の人間だろうと、血が流れて喜ぶ人などいない。絶対に、いない。
「最後まで、お側に」
その言葉に、ロイは首を振った。
「討つか討たれるかじゃないんだ。生を終わらせることを、生きる術にしてはいけない」