翡翠の森
懐かしそうに目を細めるレジー。
彼を見るのは辛かったが、ロイは目を逸らさなかった。
「色々あったんだろうが……あの日まで、俺はほとんど何も知らなかった。二人とも幸せそうで。そういや、お前に会いたがってたよ」
「僕に? 」
やはり、ロドニーの奥さんだ。
きっと彼女も優しく、まっすぐな人だったに違いない。
「ああ。けど、あの頃は――」
何かを思い出したように、途中で言葉を区切る。
「……お前、覚えてるか。いつか、お前に会わせたい奴がいると言ったのを」
そして急に、昔のことを持ち出してきた。
「え? うん。レジーの友達だろ」
もちろん、忘れるものか。
レジーの家に遊びに行くのは無理でも、今度は誰か別の子を森に連れてきてくれると約束したのだ。
『気に入ると思うぜ』
そう言われて、さも楽しみかのような返事をしたが。実のところ、不安だった。
その子と仲良くなれる自信もなかったし、せっかくできた兄と友人を奪われそうで嫌だった。
「いや、違う。あの時は敢えて訂正しなかったが……俺に友人はいなかったからな」
「え……」
言われてみれば、レジーたち家族は町を追われたという話だった。
彼の幼少期もまた、孤独だったのだ。
それなら、誰だったのか。
答えを待っていると、レジーがゆっくりと口を開く。
「妹だ。あの頃はまだ小さくて、お袋も目が離せなかったから」
「そっか。……妹さんとは、会えてるの? 」
まさか、小さな妹まで――。
どうか、それだけは。
祈りながら、掠れる声で尋ねた。
「……いや。随分会ってなかったから、どうしているかと思っていたが。元気そうだ」
「そう。よかった」
ほっと胸を撫で下ろして、首を傾げる。
何だか引っ掛かる言い回しだ。
「……ま、さか……レジー……? 」
可能性を探りながら、どうにかそれに行き着いて尋ねると、レジーは遅いと呆れ顔だ。
「そういうこと」
――ジェイダは、俺の妹だ。