翡翠の森
・・・
トスティータは今日も冷えた。
ここしばらく――ジェイダとロイが発ってから――いっそう冷え込んだ気がするのは考えすぎか。
「エミリア様」
呼ばれたことに気づき、慌てて目の前の男に意識を戻した。
「どうかなさいましたか」
言葉は丁寧だが、苛立ちを隠せていないこの男は、エミリアの親戚“という名目で”この自室にまで押し掛けてきた。
「まだ何も掴めていないのですか。アルフレッド王を籠絡することも? 」
「……信用されていないのよ。今動いてはまずいわ」
首を振ると、男は納得がいかないとなおも続けた。
「しかし、あちらは催促してきています。このままでは、我らの立場も危うくなる」
ならば、自分でやればいいではないか。
他に好きな女がいる男を、一体どうやって口説き落とせと?
「聞けば今、アルバートと祈り子は不在だと言う。何故、教えて下さらなかったのです? 」
「言ったでしょう。私は陛下の信を得ていない。知らされるまでに時間が要る」
知らせることが、頭を過らなかったわけではない。
反対を押し切っての、アルバートのクルル訪問。
その間に何か起きれば、王家の信用は失墜する。