翡翠の森



――そんな細やかな幸せが、どうして。


降りしきる雨の中、レジーは途方に暮れていた。
たまたま難を逃れたのが幸運だなんて、とても思えはしなかった。
そもそも逃れられたはずもない。
幼い妹と二人、これからどう生きていけばいい?


『兄ちゃ』


もう何度、呼んでいたのだろう。
やっと気づいて振り返れば、ジェイダが何とか自分の手に掴まろうとしていた。


『……ん……っ』


だが、妹の背丈では届かず、短い腕をいっぱいに伸ばして試す。
何度も、何度も。
突っ立ったまま放置されているというのに、諦めずに。


『ジェイダ……! 』


最近、ちっとも構ってやれなかった。
一緒に遊ぶには小さすぎたし、ジェイダは女の子。
正直妹の相手など、鬱陶しいくらいだった。


『兄ちゃ?? 』


ぎゅっと抱きしめる。
力加減など知らないから、潰れるくらいぎゅっと。それでも文句を言わず、泣くこともせず。


(……守らないと)


――それは、そう決意してすぐのことだった。
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