翡翠の森
・・・
ちょこちょこと歩く。
いや、一生懸命歩き、走り出そうとするのだが、なかなか前に進まない。
(待って)
そう思って、初めて気づく。
自分は今、誰かを追いかけているのだと。
前にいるはずの人物を必死で追っているのに、距離はますます広がるばかり。
それもそのはず、ジェイダはとても小さかった。
ということは、またも夢を見ているらしい。
ベッドに横になった記憶はないので、気を失ってしまったのか。
(早く起きなくちゃ)
そんな場合ではないと分かっているのに、離れていく誰かに追いつきたいとも思う。
この人は誰なのだろう?
どうして、置いていかれてしまうのだろう。
(一人ぼっちにしないで)
心細さに堪えきれず、やっぱりジェイダは駆け出した。
『きゃっ……』
足がもつれ、その場で転ぶ。
(ああ、間に合わない)
誰かが行ってしまう――。
『ジェイダ』
絶望しかけた時、彼が呼んだ。
(この声は……)
『……目を開けて』
(ロイ……? )
そう、彼に決まっている。
どうして、すぐに分からなかったのだろう。
(一人ぼっちなんかじゃないのに)
こんなことをしている暇はない。
転んで足が痛んだが、気合いを入れて立ち上がる。
ふわり。
ジェイダの癖っ毛を、風が遊ぶように撫でていく。
すぐそこで、誰かがクスッと笑った気がした。