翡翠の森
ジェイダからすれば、愛のない結婚なんて嫌だ。
たとえ、双方の了解がある不倫だって。
(ロイはずっと、こんな選択をし続けているのかな)
自分の感情を殺し、ただ国の為に選び続ける。
それが当然なのかもしれない。
ただの町娘の恋愛観なんて、勝手すぎるのかも。
たとえ、こうして近くにいる彼が、自分にはただの男の子にしか見えなくても。
「とはいえ、僕らもお年頃の男女。もしかしたら……本当にもしかしたら、今後、そんなことになるかもよ? それとも、ジェイダにとって可能性はゼロ? 」
そんなこと、分からない。
暫く考えるふりをしたが、ジェイダは首を振った。
「よかった。……ジェイダ?」
カップを持った手が震える。
興奮が冷めてきたからか、今頃寒さがしみてきた。
「君って子は。そりゃあね、こんな所で裸になれば、誰だって風邪引くさ」
「……裸じゃな……くしゅっ……」
くしゃみが止まらず、抗議ができない。
いや、くしゃみのおかげで、何も言わずに済むというべきか。
「裸同然でしょ。それも男二人の前で。アルの目がまん丸だったってこと、気づいてた? 」
「……誰がだ」
なぜだか赤くなっているアルフレッドを見ないよう、ジェイダはくしゃみに集中した。
「僕らが帰ったら、ちゃんと着替えて。明日またそんな恰好をしていたら、強制的に僕が着せるからね」
ロイならやりそうだ。
そう思って反論しないのに満足したのか、にこりと笑って立ち上がった。
「待って、まだ話が……」
全く進んでいない。
自分のせいだけれども。
「続きは明日、ジェイダが治ってたら。可能性がない訳じゃないって、分かっただけでよしとするよ。それならまだ、口説きようがあるしね」
「……ロイのそういう言い方は、嫌いだわ」
まるでゲームのような表現は不快だし、彼の本音が隠れてしまうから。
「僕はジェイダのそういうところ、わりと好きだよ」
さらりとそう返してみせると、ジェイダの返事を待たず、彼は兄とマロを連れて出て行ってしまった。
(……ロイ。アルバート)
本当の彼は、どこにいるのだろう。
彼自身が欲しいものは、この困難の先に落ちているのか。
(私に何ができる……? )
そう自問すると、頭がズキズキと痛みだした。
熱が上がってきたのかもしれない。
「ジェイダ様? 大丈夫ですか? 」
ジンの声が遠い。
朦朧としながら、枕元にあったテディベアをぼんやりと見つめた。