翡翠の森
「うん。でも」
口づけと呼べるかどうかも怪しいが、気が済んだのなら何よりだ。……でも?
「目を覚ました王子様には、ちっとも足りませんでした」
トンと肩を押され、再びベッドに戻されてしまう。
「あっ! 」
拍子にスカートの裾が捲られ、急いで手で押さえた。
「……本当に足りないよ。全く」
(何かやば……)
ここはあの森ではない。
いや、あれはあれで危険な状態だったが。
今日はお互い目はバッチリ覚めているし、何と言ってもここはその。
――ベッドの上。
「君が起こしたんだろ。せっかく眠ってたオオカミを」
おかしな言い方はやめてほしい。
「起こしたのは王子様……! 」
「王子様面した僕は、嫌いなんじゃなかった?」
確かにそう言ったが、もちろん意味が違う。
更なる反論をしようと口を開くと、ロイが先回りして塞いできた。
「……っん……」
抗議の声だったはずなのに、あまりに頼りない音が漏れて恥ずかしい。
「……ずるい」
結局第二段階とやらまで進み、照れ隠しに文句を言ってみる。
「うん。でも……好きな子相手に、ズルくなりきれないんだよ。察して」