翡翠の森
そっと抱き締められ、心臓がとくんと音を立てる。
ドキドキと忙しく鳴るのもいいけれど、今はこれが心地いい。
「怖い思いをさせて、ごめん」
確かに怖かった。
不安だった。
けれど、それはロイのせいではない。
彼の存在が、それほど大きくこの胸の中を占めているのだ。
「ううん。それより……レジーさんとは」
レジーの名前を出すと、青い瞳が僅かに揺らぐ。
「歩み寄ってくれてる。……ジェイダの言葉が届いたんだ」
すぐに笑ってくれたが、動揺を肯定しているようで心配になる。
「私じゃないわ。ロイのもう一人のお兄さんだもの。本当はきっと……どこかでロイを理解してくれてたんだと思う」
「……そうだね」
様子がおかしい。
あれからまた、言い争いにでもなったのだろうか。
「ロイ……? 」
彼の頬に手を伸ばす。
(あの夢みたいだ)
すごく辛そうで、苦しそうで。
なのに、どうしても泣けない顔。
「もしよかったら、聞かせて」
「え? 」
夢とは違い、目の前にいるのは子供ではない。
だが、そんなことは関係ないのだ。
大人だろうと、子供であろうと。
大切な人を失えば、声を上げて泣いていい。