翡翠の森

ロイだって、人の子だ。
奪われれば当然、怒りや憎しみも沸く。


「……っ、ロドニーがどうして……っ」


――どうして。

そう思った人達が、双方に大勢いたのだ。
いい加減、もう終わりにしなくてはいけない。
ロイも理解しているからこそ、葛藤に苛まれ苦しんでいる。

ぎゅっと腕に力を込めると、より密着して呼吸しづらい。
それでも、顔は上げなかった。
少しずつ大きくなる嗚咽を、止めたくはないから。
息苦しさを感じるのは、彼が腕を締めるからではない。


(……もう、こんなのは嫌だよ)


「……ごめん、苦しいね」


程なくして、ロイが力を緩めた。
もういいのだろうか。
男性が女に涙を見られるのを嫌うのは、何となく理解できるが。
けれど、もう無理はしないでほしいのに。


「顔、上げて」


見てもいいのか躊躇っていると、クスリと笑って言われてしまった。

頬に手を添えられ、彼を見上げる。
涙を拭いた後だったが、その目はまだ潤んでいた。


「私はいるから。最初の約束みたいに同志としても、その、こ、……恋人としても」


ロドニーの分も、とは言えない。
彼にとって父でもあり、先生でもあり……代わりがきくものではないのだ。

< 246 / 323 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop