翡翠の森
ロイだって、人の子だ。
奪われれば当然、怒りや憎しみも沸く。
「……っ、ロドニーがどうして……っ」
――どうして。
そう思った人達が、双方に大勢いたのだ。
いい加減、もう終わりにしなくてはいけない。
ロイも理解しているからこそ、葛藤に苛まれ苦しんでいる。
ぎゅっと腕に力を込めると、より密着して呼吸しづらい。
それでも、顔は上げなかった。
少しずつ大きくなる嗚咽を、止めたくはないから。
息苦しさを感じるのは、彼が腕を締めるからではない。
(……もう、こんなのは嫌だよ)
「……ごめん、苦しいね」
程なくして、ロイが力を緩めた。
もういいのだろうか。
男性が女に涙を見られるのを嫌うのは、何となく理解できるが。
けれど、もう無理はしないでほしいのに。
「顔、上げて」
見てもいいのか躊躇っていると、クスリと笑って言われてしまった。
頬に手を添えられ、彼を見上げる。
涙を拭いた後だったが、その目はまだ潤んでいた。
「私はいるから。最初の約束みたいに同志としても、その、こ、……恋人としても」
ロドニーの分も、とは言えない。
彼にとって父でもあり、先生でもあり……代わりがきくものではないのだ。