翡翠の森
すぐそこで、悲鳴や怒号が飛び交い――徐々にそれが近づいているのが分かる。
「申し訳ないが。どうやら、噂を信じる人間の方が多いようで」
(人が押し寄せてくる……!? )
「開門を」
「父上!? 」
キャシディが信じられないと叫ぶ。
「ならばお前は、逃げ惑う民を無視しろと? 」
北から、いや、トスティータから逃げる為か。
人々が門を開けろと怒鳴り、迫っている。
強固な城壁の内側は安全で、この厳しい状況下でも蓄えはたんまりあるのだろうから。
しかし、次から次へと押し入る人を、全て受け入れられるはずもない。何より今は――。
「……だから言った。現状維持の方が、まだマシだと」
(そんなことない。でも、ここにロイがいたら……! )
「帰れ、アルバート。今ならまだ、間に合う」
キャシディの説得にやや間を置き、ロイがふっと溜め息を吐いた。
「……ごめん、ジェイダ」
抱き締める力が緩み、彼を見上げた。
「僕は諦めることができない。……どうしても」
それなら、もっと強く抱いていてほしい。
この期に及んで、またも手離されるのは嫌だ。
「謝ることないわ。私も一緒にいるって言ったもの」
この前と同じ会話を繰り返すつもりなら、また喚いてやる。
国王の前だろうが、構うものか。
全力で駄々をこねようと決めている一方で、不安になってロイにしがみついた。