翡翠の森
「知ってるってば。君の頑固さについては、十分」
そんな様子に苦笑して、落ち着けというように頭を撫でてくる。
「要するに、この場が収まればいいのでしょう。問題がそれだけなら、この後必ず調印を。それから」
そして、トスティータ・クルル双方の人間をぐるっと見回した。
「僕の大切な人を、二度と祈り子とは呼ばせない。撤回はさせませんから、そのつもりで」
目を逸らす者。
口をもごもごさせる者。
しかし、異を唱える者は出てこない。
「おい!! 」
それを受け、外に出ようとするロイの前にレジーが立ち塞がった。
「お前、正気か!? のこのこ出ていくなんて……殺されかねないぞ……! 」
「そんなことする人たちじゃないって、信じてる」
軽く手を振って進もうとするロイの両肩を掴み、レジーが押し戻した。
「そういう問題じゃない。無茶だと言ってるんだろうが! 」
「よく言われる。でも、彼女もむこうでやってくれたし。僕がすごすご下がる訳にはいかない」
「だったら、お前ら二人とも阿呆なんだ!! 」
兄弟喧嘩みたいな言い合いに、こんな時だというのに微笑んでしまう。
「……ありがとう。でも……引けないんだ」
「……そういうところが、親父に似ててムカつくんだよ」
舌打ちとともに漏らしたが、もう止めてはこなかった。