翡翠の森
「敵なんかじゃ……っ!! 」
あまりの痛さに耐えきれず、ジェイダは叫ぶ。
「裏切り者! 祖先を殺した奴かもしれないというのに……」
――裏切り。
いつかは言われると覚悟していたはずの言葉が胸を抉り、それ以上声を張ることができなくなる。
「……彼女を責めるのはやめて下さい。彼女は二国の為に、苦しみながらも尽力してくれている」
それどころか衝撃で気が遠くなるのを、ロイが手を握り連れ戻してくれた。
「……確かに、その可能性はある。まして、私は王家の人間だから。……でも、私の祖先を手にかけたのだって、貴方の祖先だったのかもしれない」
そう言われ、男もジェイダも言葉を失う。
親のそのまた親の……そうして遡れば、誰がどうしていたかなど、もう誰にも分からない。
「歴史を伝えるのは、大切なことだ。もう二度と繰り返さないよう、学ぶのも。でも、新たに憎しみを植えつけ合うのは終わりにしましょう」
彼の国の英雄が、ジェイダの国では必ずしもそうではないのと同じように。
視点を変えれば、真逆になってしまうのだ。
「……そんなこと、急に言われても」
「そうですね。今、私を大好きになって下さい、とは言いません」
不審がりながらも皆、ロイの瞳を見つめている。
当初のような恐怖は、少しだけ薄れてきたようだ。