翡翠の森
「こら……! 」
母親が止めようとしたが、ロイは構わずその問いに答えるべくしゃがみこんだ。
「……ああ」
ピクッと震えたものの、少女も彼から逃げはしない。
「どうして? 」
更なる質問に、ロイは首を傾げた。
「……トスティータの人たちは、わたしを乱暴だと思ってるって」
二人が子供の頃と、何ら変わらない。
それに落胆しないと言えば、嘘になる。
「……君はどう見ても、可愛い女の子だけど」
でも、きっと――これからは違う。
少女の頬が、かあっと赤みを帯びる。
愛らしい反応に微笑むと、ロイは再び表情を引き締めた。
「此度の訪問は、けして皆さんを脅かすものではありません。キャシディ王子も快く受け入れ、理解して下さった」
当のキャシディは、無表情に事の成り行きを見守っている。
何を思っているのかは知れなかったが、それでも否定はしないでくれるようだ。
「私も彼らも、何もしない。あなた方もそうだと確信しているから」
急に、いっぺんには無理かも。
でも、ちょっとずつ。
もう少しだけ、側に寄ってみて。
涙が込み上げてきて、思わず天を仰ぐ。
今日もいつもと同じ、珍しくも何ともない晴天――。
(……あれ、空が……)
ぽつり。
雫がジェイダの頬を滑っていく。
「え……雨……? 」
「こんな天気なのに……? 」
激しい雨ではない。
ぽつぽつと、焼けた肌に気持ちいいくらいの。
「空が、泣いてる」